イラク研究グループ(ISG)報告についてのとりあえずの所見(訂正版)

平成18年12月8日

ISG報告に対するとりあえずのコメント
平成18年12月8日
大野元裕
6日、ベーカー元国務相、ハミルトン9.11ミッション元代表等による超党派のイラク研究ループによるいわゆるISG報告が提出された。
この報告書については、米政権としてもある程度尊重せざるを得ないものであり、先の中間選挙後の対イラク政策の転換を予測させるものである。
全体としては、160頁79項目の提言ということからもわかるとおり、五目定食的感もあるが、とりあえずの要点とコメントは次の通り。なお、7日付けで発表したとりあえずの所見よりも踏み込んだものを再度発表した。
ポイント コメント
現状認識 -総論-
米軍は多大なる努力を行ってきたが、宗派・民族対立が激化した(移行の評価と分析はなし)。 中間選挙前の政権前の主張とは一変して、問題が存在することを認めている。宗派・民族対立に問題が悪化したことに関するまとまった分析は無い。引き続き、米国外交にとってイラクが重要であるとの見方を示している。
イラクは米外交の中核であり、域内や世界でどのように米国が見られるかに影響力を及ぼす。
現状認識 -治安-
単一のテロリストの指導者は存在しないが、ネットワークのネットワークが存在する。 アル=カーイダのような組織の停滞が認められている一方、米軍の攻撃対象にとどまり続ける。他方で、アル=カーイダにとってのスンニー派の基盤をどうするかが課題。
アル=カーイダはイラクの混乱の小さな一部にすぎないが、陰惨な暴力活動を展開。イラクのアル=カーイダは現在では主としてイラク人により運営されている。
スンニー派とシーア派間の宗派対立は深刻で、サッダーム政権の生き残りや不満を持ったスンニー派がテロ活動に従事。 宗派対立の深刻さを正面から認識し、政権与党会派を構成するサドル勢力やSCIRIについても例外なく対処すべき認識を持っている様子が伺える。また、スンニー派が多数を占めるアンバール県の混乱については控えめな評価になっている。
シーア派民兵は短期的・長期的不安定をもたらす主要な脅威。一部は政府の中に浸透、一部は主として地域的、一部は完全に法の外。
6万人を擁するメフディ軍は、米軍とイラク政府に対する重大な脅威であり、スンニー派を殺害している。イラン革命防衛隊と関係の深いSCIRIのバドル旅団は治安機関の制服を着てスンニー派を標的にしている。
犯罪もまた日常生活を脅かしており、アンバール県では組織的犯罪が横行。
米軍はほとんど大規模な戦闘に従事することはなく、掃討作戦、イラク軍支援および緊急復興プロジェクトを実施している。 イラク軍が育成されず、信頼の置ける組織に育っていないこと、警察組織はよりひどい状況にあることを示している。ただし、治安機関員総数は32万6千に達し、目標の35万5千に近づいている。
13万8千のイラク軍と18万8千の警察が治安機関として働いている。イラク軍に関しては、師団・旅団規模での調整と指導力を欠き、装備は悪く、休暇なしの欠勤をとがめられないままに準備率は50%を切っている。また補給と支援にも問題がある。イラク警察は軍よりも状態が悪く、訓練を欠き、テロと退治する武器も有していない。一般には治安をコントロールできない状態にある。イラク政府と米軍は警察改革の必要性を認識しているが、民兵を警察から追い出せない状況にあるばかりか、イラク政府と米軍の間では、警察の目的についても共有されていない。
現状認識 -政治-
政府の構成は基本的に宗派・民族単位であり、政治指導者はしばしば宗派・民族の利益に従い動いている。イラク人・米政府は、国民和解を進め、さまざまな問題に対処する必要があると感じている。 イラクの現状認識としては妥当に思われる。その一方で、現在の宗派対立や混乱の原因を現政権の能力に求めている点は、ある意味で正しいが、米国の政治プロセスの失敗とは評価していないようである。クルド人が将来、イラクを不安定化させる懸念等についての言及はなし。繰り返し出てくるバアス党排斥見直し、恩赦の実施、石油資源の共有、憲法回線、キルクークの所属は、宗派・民族対立を左右する重要なキーワードであるが、これらの問題が宗派・民族対立を作り上げたわけではなく、権力の分散と宗派・民族の利益を掲げる政党、信頼の置けない中央政府といった課題の克服に、これらのキーワードをいかにうまく絡められるかが課題と思われる。
シーア派のUIA内で内紛が起こっている。マーリキー首相は治安と宗派対立に関し理解しているが、大きな圧力の下で、シーア派の利益を擁護するために、米国とも意見の相違を見せることがある。
スンニー派は伝統的に保持してきた政権の座から追われ、治安部隊の解体とバアス党排斥を行ったために米国を恨んでいる。米国には出て行ってほしいが、米国によってシーア派民兵から守られているとの感覚を有している。
クルド人は自治を維持している。政治家たちはクルドの自治を信じるが、クルド人の多くは独立を望んでいる。彼らは安定したイラクであろうと、分裂したイラクであろうと、自治を継続できると信じている。
国民和解の必要性は理解されているが、政府は、バアス党排斥、恩赦、石油資源の共有、憲法改正、キルクークの所属について実質的な行動を起こせないでいる。
治安問題は、宗派・民族対立の解消なしに解決しない。シーア派は民兵を正当な政治的ツールと考え、スンニー派は抵抗運動の停止を決断していない。 妥当な認識のように思われる。宗派・民族対立も政府の信頼なしには解決しないように考えられる。
統治の問題に関しては、政府は十分なサービスを提供できず、提供されているサービスもしばしば宗派・民族的観点でなされている。治安の維持も出来ず、腐敗と汚職が横行している。
現状認識 -経済-
経済は改善している部分もあるが、不十分であり、石油生産は戦争以前のレベルにいたっていない。石油の密輸は15-20万bpd、もしかすると最大50万bpdに達する。地方と中央政府の石油開発権限の問題も解決していない。政府関係者は、国政石油会社の調整によりこの問題は解決可能とするが、人口割の石油収入の配分を提言したい。 米国の対イラク政策見直しの際に経済問題を含めたことは重要である。米国内官庁間の縦割り行政がイラクにもたらした問題は、経済分野に限ったことではない。米国のイラク支援に対する予算の問題も示唆している。
米政府はすでに340億ドルの復興支援を拠出したが、議会はこれ以上の増額に関心がない。米国内官庁間の調整もうまくいかず、その援助対象は、インフラや教育分野から小規模な地方ベースの支援にシフトしつつある。
現状認識 -国際社会-
イラクの隣国はイラクを安定化させる能力があり、イラクの不安定を望んではいないが、ほとんど何の貢献もしていない。イラク問題は地域規模の解決を必要としている。イラクに最大のテコを有するイランは武器や訓練の供与をシーア派の民兵に行っている一方で、米国と問題を有している。イランほどではないにせよ、シリアも影響力を有している。シリアは米国と問題を抱えるが、対話を望んでいる。 イラクの隣国の影響力は重要であり、イラクを不安定化させるに十分な能力があるが、安定化させるに十分な能力があるかは議論があろう。シリアが対話を望んでいるとの見方は正しいと思われる。国際社会の対イラク貢献の中に、資金面での日本の突出した貢献が無いのは残念である。本報告は総体的に国際社会の対イラク経済協力に重きを置いていない印象がある。
サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国はイラクの債務帳消しに応じず、受身の姿勢を貫いている。トルコはクルド・ナショナリズムの台頭を抑えることに関心がある。エジプトならびにヨルダンは一定の対イラク支援を行っており、イラクのスンニー派の状況およびイラク情勢の両国内への影響を懸念している。
国際社会の対イラク貢献は限定的であるが、英国は大きな貢献を行っている。
現状認識 -将来-
現状を放置すれば、より大きな惨事が拡大する可能性があり、隣国は問題の飛び火を恐れ、自国の利益を守るためにイラクに介入する可能性がある。特に多くの国々は、宗派対立の飛び火を懸念している。アル=カーイダは宗派対立に油を注いでいる。 隣国の関与を放置すると、米国の望まない方向で介入する可能性は大いにありえる。
米国の政策がイラクにおいて試されている。イラクにおける問題の継続は国内の意見対立とイラク人の対米不振を煽る。
異なる選択肢
拙速な撤退 イラク三分割論は、アラーウィ元首相が述べていたとおり、イラクの混乱をいっそう深めよう。また、米軍を単純に増派しても、もっぱら軍事力に頼った政策には限界がある。ただし、米軍を増派しても無駄であるならば、米軍が早急に撤退して民生主導になっても問題は無いはずである。ポイントは、軍をいかに使ってイラク政府を支援するかにあるように思える。
拙速な撤退は、イラクにおける混乱をさらに深め、宗派・民族対立を深刻化させる懸念がある。問題は国際的な不安定につながり、アル=カーイダは勝利を宣言しよう。
現状維持
現状維持は更なる資源と被害をもたらすのみ。
米軍増派
国民和解なきイラクにおける単純な増派は問題を解決しない。増派により一定の治安改善は見込めるが、抵抗勢力は米軍がほかの地域に移ると、直ちに行動を再開している。
イラク三分割
民族・宗派に沿ってイラクを三分割することは困難で、中央政府の権限をないがしろにした分割のコストはあまりに多きい。不安定の継続を約束する三分割案を米政府が採用しないよう求める。
新たなアプローチ
外的アプローチ
米国はイラクと域内安定に向けた国際合意が必要で、米国は外交的働きかけを強めるべきである。イラクは米国の軍事力のみに頼ることは出来ず、イランとシリアを含む隣国を参加させるアプローチが必要。一部の国はイラクの安定を阻害してきた。 きわめて重要な指摘である。米国の外交政策の変化なしには、多くの国がイラクに関与できず、米国抜きの国際的枠組みの構成も非現実的。
中東全体の問題解決に向けた新たな外交イニシアティヴが必要で、それによってテロリストをマージナライズすべき。新たな外交イニシアティヴを年内に開始すべきである。 中東全体の問題解決はきわめて重要であろうが、政権がレイムダック化する前に、イスラエルを含めて中東問題を解決できるかは疑問。
バグダードにおいてアラブ連盟もしくはイスラーム諸国機構会合を開催し、国民和解支援と加盟諸国の外交プレゼンス強化を進めるべき。 象徴的な会議開催の意味はあろうが、拘束力の無い決定しか行いえず、内政に介入できない組織が実質的な役割を果たせると期待するのは楽観的すぎる。
米国は、イラクが大混乱に陥らないことに利益を見出す国際社会によるイラク支援グループ構築に向けた努力をただちに開始すべきである。支援グループ加盟国は、イラクの隣国、エジプトならびに湾岸諸国のような域内のカギとなる国安保理常任理事国、EUおよびイラクにより構成されるべきで、たとえばドイツ、日本、韓国も貢献できるかもしれない。 国際的な支援グループにおいて米国主導にこだわりすぎると失敗の可能性もある。域外の国の中に、イランの核問題に取り組んできたEUとドイツが入っていることは、イラク戦争に反対した仏独を取り込む意味でも重要。イランとシリアを関与させるためには、米国が両国と対話するよりも、国際的枠組みの下の方が参加させやすいし、コミットも引き出しやすいのではないか。
イランならびにシリアの関与は困難かもしれないが、両国の建設的な貢献を引き出すべく、米国はイランならびにシリアと直接的な関与を行うべきである。イランの核問題は引き続き安保理における協議で取り扱うべきである。 建設的な役割を果たさせることは理想だが、米政府がイランと冷静な対話を行えるかは疑問。ラフサンジャニ元大統領「困っているのはイランではなく、米国である」と言っていることからも判るとおり、イランは米国の足元を見てくる可能性がある。これまでもイランはイラクの現場を通じて米国に無言のメッセージを送り続けてきたのであり、米国が建設的に関与しろと言って問題は終わらない。イラクが安定化すれば、米国がイラクからイランを攻撃する懸念が存在するのであれば、イランは協力を望まないはずであり、何を見返りにするかについて米政権は腹をくくらねばならない。
イスラエルはゴラン高原を返還し、米国がイスラエルの安全を保障すべきである。 中東問題全体の解決は必要である。ゴラン高原問題はシリアを巻き込む報酬としては十分である。
国内的アプローチ
米指導部はイラク指導部と頻繁に接触し、イラク問題の進展にイラク政府が責任を負うことを伝え続けるべきである。 更迭されたラムズフェルド元国防長官がいみじくも言及していた通り、軍事が突出するのではなく、政治・治安・経済復興が同時並行的に進められることが肝要。
米国は、イラク治安部隊に対する訓練等の支援継続を明確に示すべきである。もしもイラク政府が何の進展も見せなければ、米政府は支援を縮小すべきである。 政治・経済・治安分野に関する米国のコミットの中で、イラク治安機関訓練を柱にする治安分野が最も玉虫色に見える。来年3月までに事態が改善しなければ、ブッシュ政権は指導力を失っているであろう。他方で、段階的縮小の規模や将来の米軍の姿は明確ではない。その一方で、すべての分野におけるイラク政府の義務については厳しいもので(別表参照)、この義務が進展しない場合には米国が関与を減らすというペナルティ付である。
米がイラクの石油支配を望んでいないことを再表明すべきである。 モノ経済構造とレンティア国家というイラクの特徴からの脱却を図る意図が見えるが、宗派・民族等の分裂を防ぐために中央政府に石油分野で強大な権限を与えるという意図は見えない。国民融和か中央政府への過剰な権限集中防止システムの構築か、という選択は見えない。外国の投資はカギであるが、イラク軍による防衛や中央政府の権限が見えない状況は、外国企業が嫌がるのではないか。
石油収入は中央政府により掌握され、人口ベースで共有されるべきである。諸裏の油田の利権については、国民和解にかんがみ進められるべき。米国は直ちにイラク政府に石油投資法の整備が出来るよう支援すると共に、イラク軍に石油施設の防衛を委譲するよう支援すべき。しっかりとした計測システムを導入すると共に、経済協力と引き換えにエネルギー分野に対する補助金をカットしなければ、エネルギー不足は解消されない。国際社会からの投資を促し、石油産業の再構築を支援するべきである
憲法改正は国民和解のカギであり、国連が指導すべき。 国民和解のためにカギとなる条項は指摘のとおり。しかし、現状のように政府に信頼が置かれない中で、キルクーク問題と憲法改正問題を早急に議論すると、逆に混乱を加速する可能性は否定できない。
国民和解のためには、サッダーム政権幹部を除くバアス党員とアラブ民族主義者の復権を進めるべき。
キルクークの危機的状況にかんがみ、国際的仲裁が必要。
イラク政府は、NGOを政治的に利用したり阻害するために、彼らの登録制度を利用するのを止めるべき。
米国はイラクに恒常的な基地を有することはないと表明し、もしもイラク政府が暫定的な基地の維持を望む場合に、それを検討すべきである。 基地議論はきわめてセンシティヴである。国民和解と引き換えに米軍のプレゼンスを議論する提言は画期的で、現在の混乱に鑑みれば、十分ありえる議論だが、反米感情を強く煽るリスクは大きい。
米軍のプレゼンスに関する議論は、国民和解のための対話で議論されるべきで、それによって武装闘争指導者等の参加を促すべき。米国はシスターニー師やムクタダー・アッ=サドルとの直接対話を進めるべきで、アル=カーイダ以外の勢力との接触を行うべき。
宗派的・民族的共同体間の対話を促進すべき。
民兵の非武装化と政府への統合に関する専門家を支援し、そのための予算等を支援すべき。 米軍の目標を転換させる意味では画期的だが、反テロ活動の定義、訓練が進まず、イラクが安定しない場合でも米軍の攻撃的戦力を撤収する案は矛盾していないか。
米国の協力が永遠のものではなく、イラク政府が計画を実施しなくても再展開することを示すべき。
二〇〇八年第一四半期までに、米軍はイラク治安機関の訓練と装備計画を達成すべき。
イラクの軍事的目標を訓練、装備拡充、諮問および反テロ活動に変化させるべき。
イラク警察、国境警察は国軍指揮下に置かれるべき。 中央政府の能力拡充と信頼獲得は急務であるが、警察機関の組織変更からモラル育成までをも含む訓練までを短期間に終えるのはきわめて困難であろう。
内務省の機構改革および能力拡充に努めるべき。
イラク治安機関に対する訓練要員の拡充。
イラク政府は、警察無線および車両購入のための予算を拡充すべき。
司法省によるイラク司法システムの訓練と能力増大支援を行うべき。
米国の対イラク支援を50億ドル規模に増額し、キャパシティ・ビルディングおよび就業機会拡充に使用すべき。 国際社会の関与と経済的支援が共に歩みを進めることは、相乗効果をもたらすであろう。
金銭的貢献にとどまらない国際社会の復興への貢献を促すべき。
大統領はイラク復興高等顧問を任命すべき。 米国内の情報収集体制から縦割り行政の弊害にいたる一連の問題は、イラク戦争以前から指摘されてきたことである。イラク政府が求められた変化よりははるかに容易な問題には違いないが、短期間に変化することができるかは疑問。
米国内の省庁間の縦割りを克服すべく、より柔軟な治安協力の体制を構築すべき。
2008予算年度より、イラク戦争経費は大統領の年次予算要求に含めるべき。
諜報長官および国防省は、イラクの不安定の根源と脅威を理解するよう努力し、現場の事情に即した正確な状況を把握すべき。
上述のポイントはISG報告の全体をカバーしたわけではないが、全体としては、民主党と共和党の政治的意図を妥協させ、米軍兵の撤退に最大の関心を抱くと思われる米国民に最低限のメッセージを送る報告であったとの印象である。イラク問題はベーカー元国務長官が述べている通り、魔法の杖で一瞬にして改善できるすべはない。治安・政治・経済復興のすべてで悪化しきった状況を一つずつほぐす必要がある。その意味では時間のかかる作業だが、米国の政治日程が時間的制約をもたらしているため、問題解決はいっそう困難になっているように思われる。カギとなるイラク軍の訓練を短期間で行えるのか、治安機関に対する信頼はイラク政権に対する信頼と不可分だが、そこはどうするのか、いまひとつのカギとなっている隣国と国際社会関与であるが、具体的にはどのようなスキームと成算をもって望むのか。ある特定の国が「ノー」と言えば実効性のなくなるスキームでは意味がなく、あるいは特定の国を参加させるインセンティブを与える度量が米国にあるのか。
米軍戦闘部隊の撤退が無条件になされることは、短期的にイラク問題をより深刻にさせよう。戦闘部隊が前線から退き、「訓練を受けた」イラク治安部隊が前面に出れば、確実に米兵の死者数は減少する。その意味では、イラク治安機関の自立だけで、目先の目標は一定の成果を得る。問題はその次である。この報告書によれば米国はきわめて重く、懲罰付の宿題をイラク政府に課すことになる。ある意味で、米国には言い訳と解釈が許される甘く、イラク政府に対しては厳しい提言になっている。
この報告内容を米政権がどのように捉え、実施するかも問題であるが、いずれにせよ、米国はこれまで目指してきた手法を見直し、手段と目的を「シュリンク」させることを余儀なくされた。しかしながら、目指す方向は不変という中での政治的妥協の産物であったと言えよう。イラクで最大の問題の一つである宗派・民族対立に対する回答を含め、米国有権者ではなくイラクの現状に根を下ろしたいまひとつ突っ込んだ議論が必要ではないだろうか。


イラクにおける進展に関する行程表(マイルストーン)
a)国民和解
2006年末~2007年初頭
地方選挙法の制定と選挙期日設定
 石油法採択
 バアス党排斥法採択
 民兵法採択
2007年3月まで
 (必要な場合には)憲法追記採択
2007年5月まで
 民兵法実施
 恩赦合意
 国民和解努力完結
2007年6月まで
 地方選挙実施
b)治安
2006年末まで
 治安経費の2006年以上の計上
2007年4月
 イラク政府が軍をコントロール
2007年7月
 イラク政府が地方をコントロール
2007年末
 (米軍の支援を得て)イラクが治安をコントロール
c)統治
2006年末まで
 中央銀行は公定歩合を20%に引き上げ、ディナールの価値を10%上げる
 石油製品を市場価格で販売