駐イラク米軍の動向:9月のぺトレイアス報告


ペトレイアス司令官の米議会に対する一昨日の報告書、要約ですが、備忘録代りに日本語にしてみました。すでに民主党系議員から、「うそつき報告」等の酷評も出ているようですが、14日に予定されているブッシュ大統領による米軍撤退に関する記者会見のベースになるものだと思いますので、ご参考まで。乱文はご容赦ください。

Report to Congress on the Situation in Iraq General David H. Petraeus Commander, Multi-National Force-Iraq 10-11 September 2007

ペトレイアス司令官の米議会に対する報告【要約】

イラクの治安状況は全域で同じではないが、改善が見られる。過去12週のうち、8週間で治安関係の事件は減少し、過去二週間は20066月以来、最低のレベルになっている。かかる改善の要因の一つは多国籍軍とイラク部隊がイラクのアル=カーイダに深刻な打撃を与えたことにある。イランの支援する特殊部隊とヒズボッラーの指導者を始めとするシーア派の過激派武装勢力にも深刻なダメージを与えた。昨年の12月にピークを見た宗派・民族対立関連の死者数も、イラク全土およびバグダードで減少した。市民の死者数も減少した。イラクの治安機関には宗派的要素という懸念があるが、より大きな責任を持ちつつある。過去8カ月の最も重要な出来事は、アンバール県の部族がカーイダを拒否し、この重要な変化が他の県にも波及し始めていることにある。
これらの事実に基づき、今後数カ月でさらなる改善が見込め、私は、治安上の改善を危機にさらすことなく、来年の夏までには、米軍の規模を、増派以前のレベルに削減できると信じている。

紛争の質
イラクにおける紛争の本質的な源は、権力と資源をめぐる宗派民族対立にある。この問題の解決が新生イラクの長期的安定のカギになる。外国および国内のテロリスト、武装勢力、過激派民兵および犯罪者が、宗派民族対立を暴力へと追い立てている。シリア、特にイランの悪意ある意向が暴力に油を注いでいる。政府の能力欠如が宗派間の不信感と様々な形の腐敗を招いている。

200612月の状況と事態の悪化
宗派間の暴力の応酬が激しくなった200612月、ケーシー司令官とハリルザード大使は、我々の目的達成に失敗したと結論付けた。バグダードを中心とする地域で、市民を擁護し宗派間対立を減少させる必要があるとの結論から、翌1月には増派が開始された。その後の数か月、バグダードとその近郊において、カーイダの隠れ家とイランが支援する民兵に対峙し、我々は、対テロの手法を採用しつつ、バグダードを中心とするイラク全土に拠点を築いた。6月半ばにはすべての追加部隊が配置を完了し、すでにアンバール県で制圧した地域を拡大し、バアクーバ、バグダードのカギとなる複数の地域、アンバール県の残りの地域および環バグダード近郊を制圧、カーイダをディヤーラ渓谷他の地域に追いつめた。同時期、我々は、武装勢力と部族との対話を進め、これがカーイダその他の過激勢力に対抗して立ち上がる追加的な効果をもたらした。我々はまた、イラク治安部隊の進展を重要視し、我々の部対的な作戦によりもたらされた機会を捉え、追加投入されたPRTの支援を得て、非軍事的な手法を採用した。

現状と傾向
感情や個人的な観測ではなく、信頼のおける情報の収集と分析に基づけば、米軍のもたらした進展はしっかりとしたものである。米国の二つの情報機関は最近我々の方法論を分析し、米軍がもたらしたデータこそがイラクで最も正確で権威あると結論付けた。
過去12週のうち、8週間で治安関係の事件は減少し、過去二週間は20066月以来、最低のレベルにある。イラク全土で、昨年12月の宗派対立のピーク時よりも民間人の死傷者は45%減少している。バグダードでは70%も減少している。カーイダによるバグダード以外での大規模な時折発生する攻撃が死者数を増加させている。センセーショナルな攻撃以外にも、民間人の死者数はいまだに高いレベルで、継続的な懸念を構成している。昨年12月時点と比較して、宗派民族対立がもたらす死傷者は大幅に減少した。イラク全土においては、宗派民族対立に基づく死者数は55%も減少しており、カーイダによる宗派対立をあおるような攻撃がない限り、さらに減少するであろう。バグダードにおける宗派民族対立に基づく死者数は80%も減少している。
カーイダおよび武装勢力の拠点となってきた地域においては、地元民が我々の努力を支援してきたこともあり、より多くの武器や爆発物を摘発できた。昨年は1700の武器貯蔵場所を摘発したが、本年に入って、4400以上を摘発した。このことは、6月以降3分の1に減少した仕掛け爆弾による攻撃減少の要因かもしれない。
アンバール県における治安の改善は特に劇的であった。200610月の同県での攻撃は1350件であったが、本年8月は200件余にとどまっている。この現象は、地元住民のカーイダ拒否およびアンバール県によるイラク軍および警察への志願増大に反映されている。他の県においても同様の傾向が見られる。ただし、イラク全体で同じ傾向が見られるわけではなく、たとえばニノワ県やサラーフ・ッ=ディーン県では、最近の治安事件の減少以前は、被害者数の増減が激しかった。
にもかかわらずイラク全土における過去三カ月の治安事件の減少は、非常に重要である。3月には175件を記録した自動車爆弾および自爆攻撃は、過去5カ月減少し続け、先月は90件になった。我々の作戦は、カーイダおよびそのシンパに対し重要な進展を見せた。過去8カ月、カーイダが拠点としていた地域を減少させ、5つの中間組織を解体させ、イラクのカーイダの指揮官を拘束し、100名近くのカギとなる指導者および2500名の戦闘員を殺害もしくは拘束した。カーイダは敗北したわけではないが、大きなダメージを受けた。カーイダに対する最近の勝利は、通常軍によるテロリスト拠点の制圧、情報収集、斥候努力、標的に対する特殊作戦部隊等の複数の要素の複合的成果である。
過去6ヶ月間、我々はシーア派民兵も標的にし、指導者や戦闘員、およびヒズボッラー組織'2800'の副司令官をも拘束した。この組織は、時にイランの革命防衛隊クドゥス部隊の指令を受けて、訓練、武器供与、資金援助を行ってきたのである。これらの勢力は、イラク政府指導者を暗殺・誘拐し、イランから提供された先進的な爆発物で我々の兵隊を死傷させ、さまざまな地域において市民を無差別にロケット攻撃に遭わせてきた。クドゥス部隊を通じてイランは、イラク人部隊をヒズボッラーのような部隊にし、イランの利益のためにイラク政府及び多国籍軍に代理戦争を仕掛けさせようとしていることが明白になっている。
過去6ヶ月間での最も重要な出来事は、部族や地元民がカーイダ等の過激派を拒絶し始めたことにある。この事態はアンバール県で最も顕著である、アンバール県はカーイダやターリバーンのようなイデオロギーに確固たる形で反対するモデルになったが、このモデルはイラク全土に普及してはいない。しかし他の部族たちも、アンバール県における行動に刺激されている。イラク政府の国民融和委員会と協調し、我々は、過激派に反対し地域の安全に貢献しようとする部族や地元民との接触を継続している。このような人々をすでに2万人警察に雇用し、他に数千人を軍や治安機関に登用した。

イラク治安機関
治安部隊は成長し、能力を向上させ、より大きな責任を負うようになっている。宗派勢力の浸透や熟練度の低さに対する懸念にもかかわらず、治安部隊はイラク全土で活躍している。現在では、140個のイラク軍、警察及び特別作戦部隊大隊が戦闘に従事しており、その内95個大隊が、多国籍軍の支援を得ながらも作戦を主導している。部隊割れ等にもかかわらず、多くのイラク部隊が多国籍軍の最小限の支援で作戦を遂行している。
対テロ作戦は実地における多数の兵士を必要としているため、我々はイラク人が治安部隊の規模を拡大できるよう支援している。内務省および国防省給与を得ている数は445000名である。本年末までに最大4万名の治安機関員の増員が決定されている。我々は、基礎的な訓練能力、司令官育成プログラム、ロジスティック部門等において、イラク部隊の拡充を支援している。2006年に引き続き、2007年も、米国からの治安協力よりも多額を治安部隊に対する費用として費やしている。イラクは、米国にとり最大の軍事物資売却先の一つになっており、160億ドルの武器取引に合意しているが、この額は年末までに180億ドルに達するかもしれない。
多国籍軍とイラク治安部隊は、継続的な安定に向かいつつあり、そうなれば、米国としても今後数カ月のうちにイラクにおける部隊を削減できるようになるであろう。

提言
2
週間ほど前、私は上司と統幕議長に対し、“Security While Transitioning: From Leading to Partnering to Overwatch.”と題する提言を行った。この提言は、民衆の安全の重要性およびイラク政府およびイラク部隊に対して、可及的速やかに、ただし急ぎ過ぎて失敗することがないよう権限を移譲することを確認している。このことはイラク治安部隊育成に対する継続的支援を含んでおり、対テロ作戦の手法の継続も必要ながら、その責任をイラク人に徐々に追わせていくことも必要である。また、域内および世界大の外交的アプローチも重要である。
この提言は、作戦上・戦略上の見地からなされるものである。

作戦上の見地としては、

○増派が進展とモメンタムをもたらしたこと、

○イラク部隊が育成されて、徐々にではあるがより多くの責任を担い始めていること、

○目的は民衆の安全と権限移譲の片方だけになってはならないこと、

○イラクのカーイダやイランが支援する民兵過激派に対する作戦の成功は、特殊部隊と通常部隊の両方を必要とすること、

○治安とイラクの政治状況が増派された軍の削減を可能にするだろうこと、を含んでいる。
検討すべき戦略的観点とは、

○適切な治安が存在する場合のみ政治的進展がもたらされること、

○米地上軍の存続は、増派が計画通り進んでいるために部隊削減による恩恵をうけるだろうこと、

○成功のためには域内および世界大のイニシアティヴが重要であること、

○イラクはより大きな主権を望む一方で、2008年においても多国籍軍を継続的に受け入れたいと表明しているところ、彼らは新たな安保理決議の下で治安協定の締結を米その他の国と締結したいと望んでいること、を含んでいる。

これらの考察に基づき、イラクの増派部隊の撤収を提言したい。今月には増派の一環として送り込まれた海兵隊緊急展開部隊がイラクを離任する予定である。ご承認いただけるのであれば、この部隊の出発の後には、12月中ごろに4個攻撃旅団を代替部隊の派遣なしに離任させ、2008年の最初の7カ月の内に2個海兵隊旅団を離任させて、20087月までには増派以前の15攻撃旅団のレベルに戻したい。さらなる削減の継続を行いたいが、現時点ではかかる削減を提言するには早いと思う。イラクにおける過去6カ月の事態には想定外のことも多かったからである。
多国籍軍の任務を、大衆に対する治安維持、反テロおよび権限移譲のためのミッションから、反テロおよび権限移譲だけに絞れとの意見もあるかもしれないが、イラクの治安部隊の能力が準備できる前に権限を移譲することはできず、時期尚早である。
クロッカー駐イラク米大使と同様に、イラクの問題は長期的な努力を必要としており、容易に回答をもたらせるものではないと信じている。またこの努力は成功に導けるが時間がかかると信じている。拙速に部隊を撤退させるならば事態を悪化させるであろうことを強調したい。迅速な撤退は、イラク治安部隊の崩壊の高いリスク、地方の治安イニシアティヴの急速な悪化、イラクのカーイダの挽回と活動の自由拡大、顕著な暴力の増大と難民増大、敵対勢力に対し優位を確保するためのイラクの勢力と内外の勢力の連帯形成、イランを始めとする域内のダイナミクスの激化、をもたらすであろう。