駐イラク米軍の動向:4月のぺトレイアス報告


8日並びに9日、ペトレイアス駐イラク米軍司令官は昨年9月に引き続き、イラク情勢に関する議会報告を行った。米国でもいわゆる「ねじれ国会」の状態が継続する中、現地の司令官報告を前面に押し出し、それを追認することで議会や国民を納得させるというブッシュ政権の手法は、現在のところ成功しているようだ。イラク情勢に関してはブッシュ大統領よりもペトレイアス司令官の方が信頼できるとの世論調査の結果もあり、ブッシュ大統領は今回も、ペトレイアス司令官報告を基礎に、報告の翌日、増派された米軍部隊撤収の停止を宣言したのであった。今回の報告の要約は以下の通り。

イラクにおける治安状況の現状を提供し、提言をさせていただく機会に感謝する。

前回の報告以来、イラクにおいては重要ながら、平坦ではない進展がみられた。昨年の九月以降、暴力のレベルと民間人の死者数は大きく減少した。イラクのアル=カーイダや他の過激派は大きなダメージを受け、イラク治安部隊の能力は向上した。一部地域の状況はいまだに不満足で、数えきれない挑戦が残されている。それ以上に、過去二週間の出来事は、繰り返し警告してきたごとく、昨春以来の進展は脆く、ひっくり返される可能性があることを想起させた。それでも前回の報告時よりもイラクの状況は改善しており、また、イラクが内戦のはざまにあり米軍の増派が決定された時よりもはるかに良い状況にある。

この進展に貢献した要素は複数ある。第一に、多国籍軍とイラク軍の増加のインパクトがある。米軍増派に加え、目立たないがイラクも増員を行い、2007年時点よりも10万人以上の治安部隊を加え、徐々にこれらの部隊を展開する能力を向上させている。

二つ目の要素は、イラク国民を擁護し、イラクのアル=カーイダを追撃し、犯罪者や民兵と戦い、地域での融和を進め、政治・経済分野での進展を可能にさせるために、反乱鎮圧に向け多国籍軍とイラク部隊が国家大で展開したことにある。

いま一つ重要な要素は、イラク国民の一部で起こった態度の変化である。2006年末のスンニー派の「覚醒評議会」出現以来、イラクのスンニー派たちはイラクのアル=カーイダによる無差別暴力と過激な教条主義をますます拒絶するようになっていった。これらの人々はまた、政治分野への参加なしに褒章にありつけることはないことを理解した。覚醒評議会は、数万規模のイラク人、かつての反乱部隊が「イラクの子供たち」として現地の治安に貢献できるようにしてきた。彼らの貢献とあくなき追撃により、イラクのアル=カーイダの脅威はいまだに深刻ではあるが、それでも大きく後退した。

 もう一つの重要な要素は、最近のバスラ並びにバグダードにおける衝突が示したように、昨秋のムクタダー・アッ=サドルによる停戦である。最近、一部の民兵が再び活動を始めた。サドルの停戦はある程度状況を改善させたが、最近の衝突はまた、特別グループと呼ばれる部隊に対して資金援助、訓練、武器支援、指示を与えてきたイランの破壊的な役割に焦点をあて、イラクの多くの指導者に対して対イラン懸念を増大させた。特別グループは民主イラクに対する長期的に最大の脅威である。

 将来的には、イラクの仲間と共に我々は、残された多くの障害に対処し、進展を享受することを目的とする。私は、増派部隊の撤収を継続する一方でこの目的を達成できると信じている。

 前回の報告時に、イラクの基本的な衝突は宗派・民族対立にあると述べた。この対立は継続しており、外国勢力の強い影響を受けつつ、イラクの長期的安定のカギであり続けている。さまざまな要素が宗派・民族対立を暴力的にしている。

 アル=カーイダ幹部は現在でもイラクを彼らの世界戦略の中心に位置づけ、様々な支援を実施している。隣国の介入はイラクの障害を面倒にしている。シリアは、同国領内からの外国人戦士流入削減のための一定の措置をとったが、イラクのアル=カーイダを支持する重要なネットワークを一網打尽にするために十分ではない。イランは、特別グループに対する支援を通じて暴力を煽っている。

 イラク政府の不十分な能力が、宗派間の不信感をあおり、不正が問題を深刻にしている。これらの障害や最近の衝突にもかかわらず、さまざまな宗派・民族対立が、暴力を通じてではなく議論を通じて行われるようになっている。実際、バグダードおよび南部における最近の暴力の激化では、少なくとも現時点では、多くの勢力が理性的に物事を進め、紫外線よりも政治的対話を選択している。

 イラクは不安定ながらも、治安分野で進展を見せた。過去6ヶ月間の治安事件数は、最近のバスラとバグダードでの暴力事件による増加を除き、2005年中盤以来見られないレベルにまで減少した。将来については不確定ながら、この暴力事件以降、再び治安事件数は低下し始めている。過去1年のイラク民間人死者数は、20062月のサーマッラーのモスク爆破以来最低である。

 宗派・民族対立は大きな懸念であり、介入しなければ継続的に転位する癌のようなものである。前回の報告時以降、宗派・民族対立による死者数は減少している。この数字の背景には、バグダードにおける宗派・民族対立の減少がある。その一方で、多国籍軍とイラク部隊は、地域社会においてスンニー派とシーア派の指導者たちが傷を癒すための長いプロセスを開始できるよう、暴力の低下に焦点を当ててきた。

 イラクのアル=カーイダの攻撃は、1年前よりもはるかに減少している。治安の改善と敵のネットワークに焦点を当てた結果、彼らの攻撃は効果のないものになっている。宗派・民族対立による死者数が比較的低レベルで推移する中、敵は宗派・民族対立に再度火をつけることができなくなっている。地域社会の安全に貢献するイラク人ボランティアの登場は、重要な出来事であった。91千名以上のシーア派並びにスンニー派の「子供たち」が彼らの地域を擁護し、インフラや道路を守るべく多国籍軍とイラク軍を支援するための契約を結んでいる。これらのボランティアは、暴力の低下によって失われてはならず、彼らとの契約にかかるコストと値段の付けようがない命を比べることなどできない。

 「イラクの子供たち」はまた、仕掛け爆弾や武器庫の発見に貢献している。2008年に発見した武器は、すでに2006年全体で発見した量を上回っている。「イラクの子供たち」の重要性を踏まえ、我々はイラク政府との間で、彼らを治安部隊に組み込むか他の雇用機会を与えることについて努力しており、すでに21千人以上が警察、軍および他の政府の職を与えられている。このプロセスは遅々としたものではあるが継続しており、我々はこれをフォローしていく。

カーイダも「イラクの子供たち」の重要性を認識しており、イラクのアル=カーイダは彼らを継続的に攻撃の標的にしている。しかしこのことは、女性、子供及び障害者を自爆テロ犯として使う手法に加え、イラクのアル=カーイダをさらに孤立させている。さまざまな地域でのイラクのアル=カーイダに対する支援の減少と共に、彼らに対する追撃は、彼らの能力、規模及び行動の自由を大きく失わせている。我々は、イラクのアル=カーイダを支援する「聖域」を大きく縮小させたが、まだ行うべきことがある。イラクのアル=カーイダは凄惨な攻撃を行う能力を有しており、彼らの攻撃を継続させる資源を維持する外部からのネットワークにも圧力をかけなければならない。

 イラクのアル=カーイダを打ち破ることは、米軍の精鋭対テロ部隊による作戦にとどまらず、多国籍軍やイラク軍の通常部隊による作戦、情報収集努力、政治的融和、経済・社会プログラム、情報操作、外交努力、拘束者に対する反テロ工作等を要請する。このことに関連し、イラク及びその他の地域における我々の作戦の成功のカギとなる情報・監視・偵察活動に対する議会の支援を高く評価する。イラクのアル=カーイダとの戦いは、イラクの不安定の主要な源を減らすばかりでなく、地域の不安定を進め彼らの影響力を拡大するための道具に(イラクを)使用するというカーイダの幹部の目論見をも後退させる。オサーマ・ビン・ラーデン並びにアイマーン・アル=ザワーヒリーは継続的にイラクの状況を悪用しており、またイラクのアル=カーイダは中東のより大きな範囲で不安定化工作を行っている。

 イラクの治安部隊と共に、我々はまた、特別グループに焦点を当てている。これらの組織は、イランのクドゥス部隊により指揮され、資金提供と武器供与を受け、訓練され、レバノンのヒズボッラーの助けを得ている。このグループこそが、イラン製のロケット弾や迫撃砲を2週間前にイラク政府の建物に撃ち込み、無辜の命を奪い、首都に恐怖をまき散らし、イラク軍及び多国籍軍による反撃を余儀なくさせた者たちである。イラク及び多国籍軍の指導者たちは、いく度にもわたり、アフマディネジャード大統領および他のイランの指導者たちが約束を守り、特別グループに対する支援を停止することを求めてきた。しかしながら、クドゥス部隊の非常な活動は継続し、イラクの指導者たちは、彼らがイラクに脅威を及ぼしていることを理解している。今後数週間もしくは数か月間のイランの活動を注視し、彼らが隣国とどのような関係をもつことを欲し、イラクにおけるイランの役割がどのようなものになるかを示す様子を注視すべきである。

イラクの治安部隊は、昨年9月以来改善を続けており、彼らの能力と現地の状況に鑑み、治安権限の移譲を進めてきた。現在、イラクの18県の半分が彼らの権限下にある。これらはクルド自治区のみならず南部諸県にも拡大しているが、バスラ県を含む他の県にはまだ克服すべき問題が存在する。しかし権限委譲プロセスは進展することになるはずで、数ヶ月後にはアンバール県並びにカーディシーヤ県で実施されよう。

 イラク治安部隊の改善は継続しており、54万人規模になっている。多国籍軍の一定の支援が必要にもかかわらず、治安作戦を主導する能力を有する大隊は100個を超え、イラク部隊の被害者が米軍の被害者の3倍を数えるようになっていることが示す通り、彼らはより大きな責任を担うようになっている。我々はイラク側と作戦後の評価を行っており、時にイラク側がそれを欲し、あるいは結果として我々の評価が低くなることもある。しかしながら、多くの部隊の行動は確固たるものであり、彼らが自信を得る場合には、イラク部隊はその能力を証明する。

過去1年のイラク治安部隊の改善は特筆すべきものである。能力を高めているイラクが運営する訓練基地は、イラク治安部隊と警察を過去16ヶ月間で133千人増員させた。2008年末までに、拡充する訓練は、新たに5万人の兵士、16個の軍及び特別作戦大隊、23千名の警察官及び8個国家警察大隊を増加させることであろう。治安関連官庁は予算を増加させており、2006年に引き続き2007年においても、米国が提供しているイラク治安部隊基金以上の額を拠出している。本年、イラクは80億ドル以上を、来年は110億ドル以上を供出することが見込まれており、これは、イラク治安部隊基金に要請される額を低減させ、2009年度には51億ドルから28億ドルへと削減されることになろう。

 治安部隊がイラクを防衛し、イラク全土を彼ら自身で安定させることは未だだが、バスラ県における最近の作戦は、短い準備期間で多くの人数の部隊、補給および代替を展開させるイラク治安部隊の能力の向上を証明した。1年前には、1個師団分の軍や警察を展開させることなど不可能であった。その一方で、最近の作戦は、補給、部隊の能力、参謀能力および指揮命令に関し、やるべきことが多いことをも示した。

 我々はまた、米外国軍売却プログラムを通じ、イラクを支援している。20083月時点で、イラク政府はこのプログラム下で20億ドル以上の米製兵器とサービスを購入した。昨年9月以来、この計画は緊急の軍事用品需要にこたえるために努力した。本件と関連して、議会に対し、国際軍事教育・訓練プログラムのための基金復活検討をお願いしたい。この基金は、イラク軍および文民幹部の教育を支援し、将来においてイラクが必要とする指導者の能力向上に重要になろう。

 多くの分野でイラクの治安が改善し、治安部隊がより大きな責任を担う一方で、イラク情勢は複雑でより大きな挑戦を受けている。イラクのアル=カーイダやムクタダー・ッ=サドルの停戦命令に従わないシーア派グループの復活に直面し得る。イランのような外部的要因がイラクの暴力をあおり、他の隣国による活動が治安を悪化させる可能性もある。逆説的に言えば、他の困難は、政治・経済面での進展の機会を提供した治安の改善ゆえにもたらされるかもしれない。改善はまた、さらなる進展が継続するとの期待をももたらす。今後数カ月にわたり、イラクの指導者たちは政府の能力を向上させ、予算を執行し、法案を通し、地方選挙、国勢調査を実施して争点となる地域の地位を確定し、国内避難民や難民を戻さなければならないであろう。このような責務は、戦争の経験を経た発展中の政府にとっての挑戦である。司令官の緊急対応プログラム、国務省の緊急対応基金及びUSAIDのスキームは、イラクがこのような挑戦に対処するための助けとなるであろう。このためにも、補正予算で要求された司令官の緊急対応プログラムへの増額を6月までにお願いしたい。これらの資金は絶大な影響を有する。

 勇気づけられることに、イラク政府は最近、イラクの司令官緊急対応プログラムとして、3億ドルの予算を我々のために分配した。イラク政府はまた、「イラクの子供たち」契約の段階的引き受け用に163100万ドル、小規模産業用ローンに15千万ドル、合同訓練・教育・再統合計画のために196百万ドルを割り当てることに合意した。イラク政府は、2か月前に成立した予算執行時に、より多くの拠出を行うことを約束した。その一方で、イラク側の予算割り当てが我々のそれを上回るとしても、我々自身の資源を確保し続けることは極めて重要である。

先月、指導部に対し、イラクに関する提言を行った。私は、15戦闘旅団規模の増派前のレベルにまで部隊人員を削減する一方で、治安上の進展を維持させることを目的として提示した。私は、治安上の進展を過大評価することなく、イラク側のパートナーと共に国民の安全を保証し、イラク側に状況が許す限り速やかに治安権限を移譲することの重要性を強調した。

9月の私の提言は、作戦・戦略上の考察により行われた。作戦上の検討は、以下の認識を含んでいた。

  軍事的な増派は進展をもたらしたが、この進展は元に戻り得る。

  イラク治安部隊はその能力を向上させたが、さらなる向上が必要である。

  秋の地方選挙、難民帰還、拘束者解放および県境と憲法140条は困難な問題である。

  「イラクの子供たち」の治安部隊への統合等は時間と監視を要する。

  あまりに多くの部隊を拙速に撤退させることは、過去の進展を危険にさらす。

  イラクで必要な任務を果たすには、適切な通常部隊と特殊部隊および顧問団が必要。

 戦略的な検討は以下を含んでいた。

  陸軍をはじめとする米軍への負担は大きい。

  イラク国内の治安問題は、深刻な域内及び域外の脅威と関連している。

  イラクが破たん国家となる場合には、カーイダとの戦い、地域の安定、すでに深刻なイラクの人道的危機及びイランの影響力封じ込めに深刻な影響をもたらす。

これらの要素を検討した末、指導部に対し増派部隊の削減継続を提案し、7月の増派部隊の撤収後、45日間の統合と評価を行った。この検討期間の後、さらなる削減の提言をいつ行い得るかを決定するために、現地の状況を評価するプロセスを開始する予定である。このプロセスは状況が許す限りにおいての削減とともに、継続される。この手法は、撤退の期限を定めるものではないが、我々の部隊が大変な努力と犠牲の結果に享受された未だ不安定な治安上の進展を確保するために、現地の状況に応じ柔軟さを提供するものである。このような主張と共に、2007年及び2008年初頭の治安上の進展は、イラクの段階的安定のための基礎を構築するものである。このことは、2700万イラク市民にとってのみならず、湾岸地域、米国民及び国際社会全体にとって極めて重要である。明確なことに、アラブの中心地においてカーイダの復活を防ぎ、イランの影響力の進展からイラクを守り、主権を擁護し、イラクの国境外にまで及ぶ民族・宗派対立の再興を予防し、既に深刻な難民問題の悪化を防ぎ、イラクが地域および国際経済における役割を拡大できるようにすることは、我々にとっての利益である。

終わりに、イラクにおける我々の国民の奉仕について申し述べたい。我々は彼ら、彼らの家族に多大なる犠牲を強いた。彼ら及び軍全体に強いた負担は、私の提言の重要な要素を構成している。議会、行政府及び国民は、我が軍と彼らが愛する人々に計り知れない支援を行ってくれた。我々はそのことに対し、深謝する。国家が国民とその家族に感謝することよりもありがたいことはない。全ての米国民は、イラクに奉仕するすべての男女とその勇気、決断力、エネルギー及び彼らが毎日示している率先さを誇りに思うべきである。

原文:http://www.defenselink.mil/pdf/General_Petraeus_Testimony_to_Congress.pdf